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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(あ)484号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人堀正一の上告趣意第一点について。

論旨は原判決において刑法九六条ノ三、二項前段の罪につき判示するところは、東京高等裁判所判例(昭和二七年(う)第一七〇八号、同二八年七月二〇日判決)に違反する旨主張する。よって案ずるに、原判決における、右の罪は「当該公の入札において当然到達すべかりし落札価格即ち公正な自由競争によって形成せらるべき落札価格に到達せしめないことを認識しながら、入札希望者が互に通謀して、特定の入札者を契約者とするため他の者は一定の価格以下又は以上に入札しないことを協定することによって成立するものである」旨の判示は、当裁判所の屡次の判例(昭和二八年(あ)第一一七一号、同年一二月一〇日第一小法廷決定、判例集七巻一二号、二四一八頁、昭和二九年(あ)第三一九八号、同三二年一月二二日第三小法廷判決、判例集一一巻一号五〇頁、昭和三〇年(あ)第二八号、同三二年一月三一日第一小法廷判決、判例集一一巻一号四三五頁)とその趣旨を同じくするものである。しかして所論引用の高等裁判所判決に判示する、刑法九六条ノ三、二項前段にいう「公正ナル価格」とは、「当該入札において公正な自由競争により最も有利な条件を有する者が実費に適正な利潤を加算した額で落札すべかりし価格」である旨の見解は、右当裁判所の判例の是認しないところであって既にこれらの判例により変更されているものといわなければならない(論旨は同項後段の「不正ノ利益」についても言及しているが、同項後段の罪は本件の関係するところでない)。されば所論判例違反の主張は採るに値しない。

同上告趣意第二、三点について。

所論は、判例違反並びに単なる法令違反、事実誤認を主張するが、所論判例違反の主張を理由ありというを得ないこと既に上告趣意第一点について説示したとおりであり、その余の主張は刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても本件につき同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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